唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第15937号

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目次

全文[編集]

原告 A
同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋 今村邦雄
被告 株式会社レガシィ
同代表者代表取締役 B
被告 税理士法人レガシィ
同代表者代表社員 B
上記両名訴訟代理人弁護士 八代徹也 木野綾子

主文[編集]

1 被告らは,原告に対し,連帯して201万4333円及びこれに対する平成22年10月6日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。

2 被告らは,原告に対し,連帯して20万円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3 原告のその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用は,これを5分し,その3を被告らの負担とし,その余を原告の負担とする。

5 この判決1項は,仮に執行することができる。

事実及び理由[編集]

第1 請求[編集]

1 主文1項のとおり。

2 被告らは,原告に対し,連帯して201万4333円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要[編集]

 本件は,被告ら双方に雇用されていた原告が,被告らに対し,時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして,〔1〕割増賃金及びこれに対する最終給与支払日の翌日から年14.6%の割合による遅延損害金,
〔2〕付加金及びこれに対する本案判決確定の翌日から年5%の割合による遅延損害金を,それぞれ連帯して支払うことを求める事案である。  被告らは,原告には裁量労働制が適用されるなどと主張して争った。

1 争いのない事実等[編集]

 次の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲2,4の1及び2,甲5,6の1及び2,甲12,乙1~3,5,10)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。

(1)被告株式会社レガシィ(以下「被告会社」という。)は,金融,財務,その他の資産の管理及び運用に関する総合コンサルティング業務,会計事務代行業務等を目的とする株式会社であり,
被告税理士法人レガシィ(以下「被告法人」という。)は,他人の求めに応じ,租税に関し,税理士法2条1項所定の税務代理,税務書類作成及び税務相談に関する事務を行うこと等を目的とする税理士法人である。
被告らの代表者は,いずれもBであり,被告会社の本店所在地と被告法人の主たる事務所の所在地は,同一であり,被告会社の従業員と被告法人の従業員も,ほぼ同一である。

(2)原告は,平成22年1月1日,被告らとの間で,被告らの法人税・資産税部門における税理士の補助業務を行うスタッフとして,期間の定めなく雇用される旨の労働契約を締結し,同年9月末日,被告らを退職した。

 原告は,平成19年3月から平成21年12月までの間,有限責任監査法人トーマツに勤務し,平成22年1月1日時点において,既に公認会計士試験に合格していたが,
同年9月末日までの間に,公認会計士となる資格を取得するために必要な実務補習を修了しておらず,税理士となる資格を取得することもなかった。

(3)原告の賃金については,毎月1日から末日までの期間の分を翌月5日に支払うものとされた。また,原告の給与月額は,33万7000円であり,そのうち29万7000円が被告会社支払分,4万円が被告法人支払分とされた。

(4)被告らは,いずれも平成22年当時,就業規則において,従業員の勤務時間を8時間,始業時刻を午前8時50分,終業時刻を午後6時,休憩時間を午前11時30分から午後12時30分及び午後3時から午後3時10分とする旨を定めていた。
また,休日については,日曜日,土曜日,国民の祝日,年末年始(12月30日から翌年1月4日まで),使用者が「レガシィカレンダー」により指定する日とする旨を定めており,平成22年度(平成22年1月1日~同年12月末日)における休日は,122日であった。

(5)被告らの平成22年当時の就業規則には,次の内容の規定(以下「本件規定」という。)があった。 ア 専門業務型裁量労働制は,労使協定で定める対象労働者に適用する。

イ 専門業務型裁量労働制を適用する労働者(以下「裁量労働適用者」という。)が所定労働日に勤務した場合には,勤務時間を原則8時間とする定めにかかわらず,労使協定で定める時間,労働したものとみなす。

ウ みなし労働時間が所定労働時間を超える部分については,割増賃金を支払う。

エ 始業時刻及び終業時刻は,上記(4)の始業時刻及び終業時刻を基本とするが,業務遂行の必要に応じ,裁量労働適用者の裁量により具体的な時間配分を決定するものとする。

オ 休憩時間及び休日は,上記(4)のとおりとする。

カ 裁量労働適用者が,休日及び深夜に労働する場合については,あらかじめ所属長の許可を受けなければならないものとし,許可を受けて休日及び深夜に業務を行った場合には,被告らは,割増賃金を支払うものとする。

(6)被告会社における専門業務型裁量労働制に関する協定届(平成20年10月31日に成立し,同年11月1日から平成23年10月31日までを有効期間とする協定について,平成23年8月23日に届出られたもの。
乙5)には,裁量労働制の対象となる業務の種類として「会計事務」,業務の内容として「税理士法に定める税務代理,税務書類の作成,税務相談,及びこれらの税理士業務に付随する財務書類の作成 会計帳簿の記帳代行等,財務に関する事務」と記載されていた。

(7)原告は,被告らに雇用されていた平成22年1月1日から同年9月末日までの間, 別紙「出退勤時刻等一覧表」の「年月日」欄記載の日に,同「出勤時刻」欄記載の時刻に出勤し,同「退勤時刻」欄記載の時刻に退勤し,同「休憩時間」欄記載の時間,休憩し,同「勤務時間」欄記載の時間,労働した。また,原告は,同年7月31日(土曜日)に4時間労働した。

(8)被告は,原告に対し,平成22年9月分の賃金支払日である同年10月5日,原告の同年3月6日(土曜日),同年7月31日(土曜日),同年8月8日(日曜日)及び同月22日(日曜日)の各労働について,割増賃金として5万2008円を支払った。

(9)原告は,被告らに対し,平成23年2月4日到達の同年1月31日付け賃金支払請求書(甲4の1)により,未払賃金の請求をしたが,被告らは,原告に対し,同年3月18日付け書面(甲5)を送付して,原告の請求を拒絶した。

 その後,原告は,被告らに対し,同年12月19日到達の同月14日付け賃金支払請求書(甲6の1)を送付して,未払賃金の請求をしたが,被告らは,原告に対し,回答しなかった。

2 原告の主張[編集]

(1)割増賃金の支払請求について

ア 割増賃金の額

 原告は,被告らに雇用されている間,被告らの明示又は黙示の業務命令に基づいて,別紙「出退勤時刻等一覧表」の「通常残業時間」欄記載のとおりの時間外労働(深夜労働,法定休日労働を除く。以下同じ。)に従事し,
同「深夜残業時間」欄記載のとおりの深夜労働に従事し,同「休日労働時間」欄記載のとおりの法定休日労働に従事した。それぞれの時間は,時間外労働が合計661時間40分,深夜労働が合計102時間48分,法定休日労働が合計9時間である。

 上記の時間外労働,深夜労働及び法定休日労働についての労働基準法37条1項,4項及び労働基準法施行規則20条1項に基づく割増賃金の額は,
次の計算式のとおり,時間外労働についての分が合計172万0333円,深夜労働についての分が合計32万0736円,法定休日労働についての分が合計2万5272円であり,これらの合計206万6341円のうち201万4333円がいまだ支払われていない。

 したがって,被告らが原告に対して支払うべき割増賃金の額は,201万4333円である。

(計算式)

〔1〕1年における1か月平均所定労働時間
(365日-122日)×8時間÷12か月=162時間
〔2〕1時間当たりの賃金
給与月額33万7000円÷上記〔1〕162時間=2080円(切捨て)
〔3〕時間外労働についての割増賃金額
(661時間+40分÷60分)×上記〔2〕2080円×1.25=172万0333円
〔4〕深夜労働についての割増賃金額
(102時間+48分÷60分)×上記〔2〕2080円×1.5=32万0736円
〔5〕法定休日労働についての割増賃金
9時間×上記〔2〕2080円×1.35=2万5272円

イ 時間外労働についての割増賃金の支払請求(原告に対する専門業務型裁量労働制の適用の有無)について

 被告らは,原告について,「税理士の業務」を行う者として労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制が適用されることを前提に, 被告らが原告に対し時間外労働についての割増賃金を支払義務を負わない旨を主張する。

 しかし,同条の3第1項1号は,専門業務型裁量労働制の対象となる業務について,「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため,
当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なもの」と定めており,その業務が高度に専門的な能力を必要とするものであることが不可欠である。
そして,同号,労働基準法施行規則24条の2の2及び平成14年厚生労働省告示第22号において,「税理士の業務」が専門業務型裁量労働制の対象とされたのは,その業務が高度に専門的な能力を必要とするものであり,
そのことが法律上の国家資格という最も明確な形で担保されていることに基づく。
前記告示に関する通達(平成14年基発第0213002号)が,「税理士の業務」について,法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいうとするのも,当該業務が法令上税理士しか行い得ないとされていること(税理士法52条)を前提とするものである。
そうすると,税理士でない者,すなわち,税理士となる資格を有さず,税理士名簿への登録を受けていない者は,「税理士の業務」を行い得ず,その者に専門業務型裁量労働制を適用することはできないというべきであるから,原告には専門業務型裁量労働制が適用されない。

 また,被告会社は,被告法人と異なり,税理士法52条により,税理士の業務を行うことができない以上,仮に,税理士でない者について専門業務型裁量労働制を適用し得るとしても,
原告が被告会社に対して提供した労務については,「税理士の業務」に該当せず,専門業務型裁量労働制を適用し得ない。

 さらに,専門業務型裁量労働制を導入するためには,使用者は,これに関する労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出なければならないところ(労働基準法38条の3第2項,同法38条の2第3項,労働基準法施行規則24条の2の2第4項),
被告法人における専門業務型裁量労働制に関する協定は,届出がされておらず,また,被告会社における専門業務型裁量労働制に関する協定については,平成20年10月31日に定められたとしても,平成23年8月23日に届出がされたにすぎず(乙5),
原告が被告会社に雇用されていた平成22年においては,その届出がされていなかったものである。そうすると,仮に,税理士でない者に対して,専門業務型裁量労働制を適用し得るとしても,原告に対しては,その適用の要件を満たしていなかったものである。

 以上によれば,被告らは,原告に対し,時間外労働についての割増賃金を支払うべきである。

ウ 深夜労働についての割増賃金の支払請求(所属長の許可の要否等)について

 被告らは,原告に本件規定が適用されることを前提に,被告らが原告の所属長において,原告に対し,深夜に労働することの許可を与えた事実はなく,深夜労働についての割増賃金を支払うべき理由はない旨を主張する。

 しかし,本件規定は,労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制に関するものであり,本件規定にいう「裁量労働適用労働者」も,上記専門業務型裁量労働制が適用される者を意味するのであり,
前記のとおり,原告に専門業務型裁量労働制が適用されない以上,本件規定が適用されることもなく,原告は,休日又は深夜に労働する場合に所属長の許可を得る必要はない。

 また,仮に,原告に本件規定が適用されるとしても,原告は,常に直属の上司の面前において深夜労働に就いており,被告らの所属長の黙示の許可を得て就労したものというべきであるから,本件規定所定の割増賃金支払の要件を充たす。

 したがって,被告らは,原告に対し,深夜労働についての割増賃金を支払うべきである。

エ 法定休日労働についての割増賃金の支払請求について

 被告らにおいては,日曜日が法定休日であると解されるから,平成22年8月8日(日曜日)及び同月22日(日曜日)の労働については, 法定休日労働として割増賃金が支払われるべきである。

(2)被告らの割増賃金の連帯支払義務について

 被告らの代表者及び本店ないし主たる事務所の所在地が同一であり,従業員もほぼ同一であること,原告が被告ら双方と労働契約を締結していたことは,いずれも当事者間に争いがないところ,
原告は,ただ一度の機会に,被告らの人事担当者であるCから被告らを区別した上での説明を受けることなく, その労働契約を締結したものであり,その際に書面(甲11)をもって提示された賃金の額も,被告会社及び被告法人からそれぞれいくら支払われるのかについて全く区別されていなかった。
そして,被告らは,原告から,被告ら相互の業務内容,労務提供の受領先,原告の労働条件等について全く区別することなく労務の提供を受け,
原告も,被告らに対し,自らの労務の提供先として両者を全く区別することなく一体のものとして認識し,その労務を提供していたものである。
被告らの「キャリア・ディベロップメント・プログラム」(乙4)においても,被告ら相互を全く区別することなく,賃金制度の考え方,等級体系,賃金体系が定められている。そして,原告が被告らを退職する際に作成して提出した退職届も,1通のみであった。

 上記の事実に照らせば,原告と被告らの間の労働契約においては,労務の提供とその反対給付である賃金の支払について,不可分債務(民法430条)とする旨の明示又は黙示の合意があったというべきである。
したがって,被告らは,原告に対し,賃金及びこれに対する遅延損害金を連帯して支払うべき義務を負う。

 また,上記の事実に照らせば,原告と被告らとの間の労働契約は,契約締結行為それ自体としても,契約当事者の認識においても,被告らを共同の主体とする1個の行為によって締結されたものであり,
被告会社及び被告法人双方の営業のためにされたものであるというべきである。したがって,原告と被告らとの間の労働契約に基づき発生した債務は,被告らのために商行為である行為によって負担されることになったといえるから,
商法511条1項により,被告らは,原告に対し,当該債務について連帯債務を負うというべきである。
エ 以上より,被告らは,原告に対し,連帯して割増賃金201万4333円及びこれに対する遅延損害金を支払うべき義務を負う。

(3)遅延損害金の支払請求について

 原告が既に被告らを退職している以上,上記の未払割増賃金については,賃金の支払の確保等に関する法律(以下「賃確法」という。)6条1項及び賃確法施行令1条により、最終給与支払日の翌日から年14.6%の割合による遅延損害金が発生する。
したがって,原告は,被告らに対し,連帯して201万4333円に対する平成22年10月6日から支払済みまで年14.6%の割合による金員の支払を求めることができる。

(4)信義則違反の抗弁について

 被告らは,原告の割増賃金請求が信義則に反するものとして許されないと主張し,その評価根拠事実として,様々な事実を主張するが,その事実自体が認められないものがあるほか,その関連性も不明である。 

 仮に,原告に背信的意図に基づく機密保持義務違反行為があったとしても,それを根拠に原告の請求が信義則に違反する旨を主張することは,労働基準法24条1項(賃金全額払いの原則)に反し,主張自体失当である。

 したがって,被告らの信義則違反の抗弁は,理由がない。

(5)付加金の支払請求について

 被告らは,労働基準法37条1項,4項,労働基準法施行規則20条1項に違反して,原告に対し,長期にわたり多額の割増賃金を支払わず,再三請求を受けた後も何ら対応しなかった。
被告らの労働基準法違反の程度や態様が極めて悪質であり,原告が受けた不利益は甚大である。被告らには,付加金の支払を命じることが相当でないと認められるような特段の事情は認められない。

 したがって,原告は,被告らに対し,労働基準法114条に基づく付加金として,201万4333円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求めることができる。

3 被告らの主張[編集]

(1)割増賃金の支払請求について

ア 原告の時間外労働,深夜労働及び法定休日労働についての割増賃金201万4333円が未払であることは,否認し,又は争う。

イ 時間外労働についての割増賃金の支払請求(原告に対する専門業務型裁量労働制の適用の有無)について

 被告らにおいては,労使協定により労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制が定められるとともに,就業規則において,上記専門業務型裁量労働制に係る規定として,本件規定が置かれている。
そして,原告については,税理士ではないものの,上記専門業務型裁量労働制が適用されていたから,時間外労働という概念自体あり得ず,被告らは,原告に対し,時間外労働についての割増賃金を支払うべき理由はない。

 すなわち,同条の3所定の専門業務型裁量労働制の対象となる業務の範囲については,その業務を行う手段や時間配分の決定などについて使用者が具体的な指示をすることが困難な業務か否かという観点から実質的に解釈されるべきである。
同条の3第1項1号,労働基準法施行規則24条の2の2第1項6号及び平成14年厚生労働省告示第22号により専門業務型裁量労働制の対象業務とされた「税理士の業務」とは,飽くまで,法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいうのであり,
税理士法上,税理士のみならず税理士法人が税理士の業務を行うことが予定されている以上(税理士法52条参照),税理士として登録していない者が,実質的に税理士の業務を行うということも当然にあり得るところであり,
税理士法2条1項に規定する税務代理,税務書類の作成等が「税理士の業務」の例であるとする平成14年基発第0213002号も,税理士として登録している者しか「税理士の業務」の主体になり得ないことまでは意味していない。
そして,原告は,税理士法人である被告法人の従業員として,顧客の窓口,相談対応,調査,申告書類作成等,実質的に税理士の業務に従事していたのであり,その業務は,登録のある税理士が行う税理士の業務と同様,
その手段や時間配分の決定などについて使用者が具体的な指示をすることが困難な業務であるといえる。
実際に,被告らは,原告に対し,業務の進め方(どのような順序,方法で当該業務を行うべきか)については具体的指示をしておらず,それは,配分を受けて納期を指示された原告の裁量に任されていたものである。
したがって,原告には労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制が適用されるというべきである。

 なお,原告は,被告らが専門業務型裁量労働制に関する協定の届出をしなかったことを問題視するが,協定の届出は,専門業務型裁量労働制の効力要件ではないから,専門業務型裁量労働制の適用は否定されない。

ウ 深夜労働についての割増賃金の支払請求(所属長の許可の要否等)について

 本件規定所定の「裁量労働適用労働者」は,飽くまで,被告らの就業規則又は原告と被告らとの間の個別労働契約によって「裁量労働適用労働者」とされる者を指す。
そして,原告は,専門業務型裁量労働制が適用されるかどうかにかかわらず,本件規定所定の「裁量労働適用労働者」に該当するから,
被告らの就業規則又は原告と被告らとの間の労働契約に基づき,休日又は深夜に労働する場合には,あらかじめ所属長の許可を得なければならないとされ,
その許可を得て休日又は深夜に業務を行った場合に限り,割増賃金の支払を受け得るものである。

 しかるに,被告らが,原告の所属長(大山プリンスパル)をして,原告に対し,深夜に労働することの許可を与えた事実はない。そして,原告がパソコンに向かって何をしているか(私的に利用している可能性もある。),
あるいは,被告らの業務を行っているとしてもそれがその時に残業してまで行う必要がある仕事であるかどうかについては,原告自らが明らかにしない限り,上司に分かるはずもなく,
上司が原告の作業を止めさせなかったとしても,そのことをもって黙示の許可があったとはいえない。

 したがって,被告らは,原告に対し,深夜労働についての割増賃金を支払うべき理由はない。

エ 法定休日労働についての割増賃金の支払請求について

 被告らにおいては,法定休日が特定されておらず,週に1日あるいは4週に4日休日が与えられていれば法定休日の要件は満たされるから,日曜日又は土曜日のうち労働しなかった方の日が法定休日となる。
したがって,平成22年8月8日(日曜日)及び同月22日(日曜日)は,いずれも法定休日ではないというべきであり,上記両日の労働については,法定休日労働としてではなく,単なる時間外労働としての割増賃金が支払われるにすぎない。

(2)被告らの割増賃金の連帯支払義務について

 原告は,被告らそれぞれとの間で労働契約を締結し,被告らそれぞれに対して労務を提供し,それぞれの被告から別々にその対価である賃金を得ていた。被告ら内部における相互の区別が不明確であったことは否めないが,
税務相談や税務申告等の税理士法人でなければできない業務については,被告法人として行っていたものであり,原告も,被告法人に対して,その労務を提供していた。明示又は黙示に不可分債務との合意がなされていたという事実はなく,
被告らは,原告に対し,賃金及びこれに対する遅延損害金を連帯して支払うべき義務を負わない。

(3)遅延損害金の支払請求について

 賃確法6条2項,賃確法施行規則6条は,同法6条1項の適用を除外しているところ,同規則6条5号が除外事由の一つとして「その他前各号に掲げる事由に準ずる事由」を定め,その適用範囲を拡げていることなどに照らせば,
同条4号については,裁判所又は労働委員会において,事業主が,確実かつ合理的な根拠資料が存する場合だけでなく,
必ずしも合理的な理由がないとはいえない理由に基づき賃金の全部又は一部の存否を争っている場合にも,同法6条1項の適用を除外するものであると解するのが相当である。

 本件では,被告らに賃確法施行規則6条4号所定の事由があるといえ,原告の請求に係る割増賃金に対する遅延損害金については,商事法定利率(年6分)によるべきである。

(4)信義則違反の抗弁

 以下のア~オの事情に照らせば,原告の割増賃金請求は,信義則に反するものとして許されない。

ア 原告が被告らにおいて行っていた活動は,被告らの業務の遂行という側面のほか,原告らの勉強ないし修行という側面も有していた。
イ 被告らは,原告について,将来ある税理士の卵として大事に育成してきたものであり,自分の仕事が手一杯の時には,上司から新たな仕事を割り当てられても断ることを認めるなどの配慮をしていた。
ウ 原告は,専門業務型裁量労働制の適用を受けることを前提として被告らと労働契約を締結し,退職時までその待遇に異議を唱えて来なかった。
エ 原告は,公認会計士となる資格を取得するために必要な実務補習を修了していないことをあえて秘して,被告らに雇用された。
オ 原告は,自ら時間外労働等についての割増賃金手当を請求するのみならず,他の退職者らに対しても,被告らに同様の請求をするようそそのかすとともに, その際,被告らの保有する機密文書である「09集計シート」等の各退職者の労働時間主張の基礎となる資料(甲17)を被告らから盗み出して渡した。
このような原告の背信的意図に基づく機密保持義務違反行為によって,被告らの元従業員であるD及びEは,被告らを相手方として,時間外労働についての割増賃金を請求する労働審判を申し立て,
その後に移行した訴訟の公開の法廷において,原告から提供を受けた上記資料を証拠として提出するに至った。

(5)付加金の支払請求について

 付加金の支払を命じるかどうか,その金額をいくらにするかは,裁判所の裁量であり,使用者の行為が悪質であるかどうかということを勘案して決するが, 結果的に割増賃金の不払があったとしても,労働組合の了解の下で実施された賃金や労働時間の決め方から発生したものであり,労働基準法の解釈が誤っていたという面が大きい場合には,
制裁としての付加金の支払を命ずることは相当ではない。本件は,正に上記の場合に該当するから,被告らに付加金の支払を命じるべきではない。

4 争点[編集]

 本件の主たる争点は,次のとおりである。

(1)原告が被告らに対し時間外労働についての割増賃金の支払を請求し得るかどうか(争点1)。その前提として,原告に労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制が適用されるかどうか。
(2)原告が被告らに対し深夜労働についての割増賃金の支払を請求し得るかどうか(争点2)。その前提として,原告が深夜労働についての割増賃金の支払を受けるのに,所属長の許可を要するかどうか。
(3)原告が被告らに対し法定休日労働についての割増賃金の支払を請求し得るかどうか(争点3)。その前提として,平成22年8月8日(日曜日)及び同月22日(日曜日)がいずれも法定休日であるかどうか。
(4)被告らが原告に対し割増賃金及びこれに対する遅延損害金を連帯して支払う義務を負うかどうか(争点4)。
(5)被告らが原告に対して支払うべき割増賃金の額(争点5)。
(6)被告らが原告に対して支払うべき遅延損害金の額(争点6)。
(7)原告の割増賃金請求が信義則に違反するかどうか(争点7)。
(8)被告らに対し付加金の支払を命じるべきであるかどうか及びその金額いかん(争点8)。

第3 当裁判所の判断[編集]

1 前記争いのない事実等,証拠(甲2,11,乙1,2,4,6,7,11,15)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。[編集]

(1)被告会社は,会計事務代行業務等を目的とする株式会社であり,被告法人は,税理士法人であるが,被告らは,代表者を同じくするとともに,その本店所在地ないし主たる事務所の所在地も同一である。
被告らの従業員構成もほぼ同一であり,従業員のほとんどが,被告会社と被告法人の双方に雇用されている。

(2)被告らの就業規則は,ほぼ同一の内容であり,勤務時間,休憩,休日,休暇等についても,同じ内容の定めがされている。
しかし,被告会社と被告法人の双方に雇用された従業員について就業時間や給与等を調整するような定めは一切なく,そのような従業員も,被告らそれぞれにおいて同一に定められた就業規則に従って就業することとされている。

(3)被告らに行政書士法人レガシィを加えたレガシィマネジメントグループにおいては,平成22年1月1日付けで,賃金制度の考え方,等級体系,賃金体系について説明した「キャリア・ディベロップメント・プログラム(資産税・法人税務部社員用)」(乙4)が定められた。
これは,被告らの就業規則において引用され,その一部とされていた。しかし,上記プログラムにおいては,被告らが全く区別されることなく,一体として賃金制度,等級体系,賃金体系が構築されていた。

(4)原告は,税理士となる資格を有せず,税理士名簿への登録も受けていなかったところ,被告らとの間で,被告らの法人税・資産税部門の税理士の補助業務を行うスタッフとして,
期間の定めなく雇用される旨の労働契約を締結し,被告らそれぞれの就業規則に従って就業することとされた。
そして,被告らから雇用されている間,被告会社から給与月額として29万7000円,被告法人から給与月額として4万円の支払を受けていた。
しかし,被告らに雇用される際に,被告らから給与月額の提示として交付された書面(甲11)には,被告らのいずれが支払元であるかを何ら区別することなく, 給与月額については,基本給23万9000円,専門性手当4万8000円,資格手当5万円の合計33万7000円である旨が記載され,
年収については,賞与として月額給与4か月分の8割の額を加えた合計512万3000円である旨が記載されていた。

(5)原告は,被告らに雇用されている間,確定申告に関する業務,土地等の簡易評価の資料作成業務等を行っていたところ,その業務が被告会社の業務であるのか被告法人の業務であるのかについては,明確に特定区分されることはなかった
(なお,税務相談や税務申告等の税理士法人でなければできない業務については,被告法人として行い,原告も,被告法人に対してその労務を提供していたという事実を認めるに足りる証拠はない。)。

2 争点1(原告が被告らに対し時間外労働についての割増賃金の支払を請求し得るかどうか)について[編集]

(1)労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制は,業務の性質上,業務遂行の手段や方法,時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務を対象とし,
その業務の中から,対象となる業務を労使協定によって定め,労働者を実際にその業務に就かせた場合,労使協定によりあらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度である。
労働基準法施行規則24条の2の2,平成14年厚生労働省告示第22号は,「税理士の業務」を専門業務型裁量労働制の対象と定めるが,ここで「税理士の業務」とは,法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいい,
税理士法2条1項所定の税務代理,税務書類の作成,税務相談がこれに該当すると解するのが相当である。

(2)ところで,税理士の業務については,税理士法52条により,税理士又は税理士法人(税理士が社員となって設立する。
税理士法48条の2及び4)でない者が行うことが制限されており,税理士又は税理士法人以外の者が業として他人の求めに応じて税務代理,税務書類の作成等を行うことは許されない。
また,税理士の業務は,公認会計士の業務,弁護士の業務,建築士の業務等と並んで,いずれも専門性の高い国家資格を要する業務であることに基づき,労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制の対象とされたものである。 これらのことに照らせば,専門業務型裁量労働制の対象となる「税理士の業務」は,税理士自身,すなわち,税理士法3条所定の税理士となる資格を有し,同法18条所定の税理士名簿への登録を受けた者自身を主体とする業務をいうものと解するのが相当である。

 もっとも,実際のところ,税理士でない税理士事務所又は税理士法人の従業員が,税理士事務所又は税理士法人の内部において,税理士又は税理士法人の指示により,
税理士又は税理士法人が行うべき税務書類の作成等の業務を,単なる補助者にとどまらない立場で事実上行うという場合もあり得る。被告らは,このような税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務について,
実質的に「税理士の業務」を行うものと評価して,専門業務型裁量労働制の対象と認め得ることを前提に,原告に専門業務型裁量労働制が適用されると主張するものであると理解される
(なお,原告による業務が,税理士又は税理士法人が行うべき税務書類の作成等の業務でなく,単なる税理士の補助的業務であるというのであれば,そもそも実質的に「税理士の業務」を行うものと評価する前提を欠くといわざるを得ない。)。

 しかしながら,仮に,被告らが主張するように,税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務について,実質的に「税理士の業務」を行うものと評価して,
専門型裁量労働制の対象と認め得る余地があるとしても,前記のとおり,そもそも税理士又は税理士法人でない者が業として他人の求めに応じて税務書類の作成等を行うということ自体が法律上制限されていることに照らせば,
税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務を専門型裁量労働制の対象と認め得るためには,少なくとも,その業務が税理士又は税理士法人を労務の提供先として行われるとともに,
その成果が当該税理士又は税理士法人を主体とする業務として顕出されることが必要であるというべきである。

(3)これを本件についてみると,税理士法人である被告法人においては,その税理士以外の従業員が被告法人を労務の提供先として事実上税務書類の作成等の業務を行い,その成果が被告法人を主体とする業務として顕出されるということがあり得る。
しかしながら,他方,税理士法人でない被告会社においては,自らが業として他人の求めに応じて税務書類の作成等を行い得るものではない以上,被告会社の従業員が被告会社を労務の提供先として事実上税務書類の作成等の業務を行ったとしても,
その業務は,税理士又は税理士法人を労務の提供先とするものとはいえず,また,その成果が税理士又は税理士法人を主体とする業務として顕出されるということも考えられない
(なお,仮に,業務の成果が被告会社の従業員である税理士個人を主体とする業務として顕出されることがあったとしても,その労務の提供先が当該税理士個人ではなく被告会社である以上,同様である。)。
したがって,少なくとも,被告会社においては,その税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務について,実質的に「税理士の業務」を行うものと評価して専門型裁量労働制の対象に該当すると解する前提を欠き,
税理士以外の従業員に専門型裁量労働制を適用することはできないというべきである。

 そして,前記認定の事実関係の下では,原告は,被告ら双方と労働契約を締結したものの,被告らに対し,そのいずれの業務であり,そのいずれが労務提供先となるのかを格別区別することなく,双方の業務が渾然一体となったものとして,
その労務を提供していたものであり,被告らも,原告から,被告らのいずれの業務であり,被告らのいずれが労務提供先となるのかについて格別区別することなく,その労働の提供を受けていたものであると認められる。
このような被告会社の業務と被告法人の業務とが渾然一体となって行われている場合に専門業務型裁量労働制を適用することは,
専門業務型裁量労働制を本来適用することができない業務に適用する結果となるものであり,労働基準法が特定の業務に限って専門業務型裁量労働制の対象とした趣旨を損なうものといわざるを得ない。
したがって,被告らにおける原告の業務については,仮にそれが事実上の税務書類の作成等であったとしても(むしろ,乙11~14及び弁論の全趣旨によれば,原告の業務は,税理士の補助業務にとどまることがうかがわれる。),
被告会社の業務として行われたのか被告法人の業務として行われたのかが明確に特定区分されていない以上,専門業務型裁量労働制を適用することはできないというべきである。

(4)以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告には専門業務型裁量労働制が適用されないものと認められ,
被告らは,原告に対し,時間外労働についての割増賃金を支払う義務があるというべきである。

3 争点2(原告が被告らに対し深夜労働についての割増賃金の支払を請求し得るかどうか)について[編集]

 前記争いのない事実等,証拠(乙1,5,10)及び弁論の全趣旨によれば,本件規定は,被告らにおける業務について専門業務型裁量労働制を導入する旨の規定であり,専門業務型裁量労働制が適用される従業員をもって「裁量労働適用者」と称した上で,
「裁量労働適用者が,休日又は深夜に労働する場合については,あらかじめ所属長の許可を受けなければならないものとする。」と定めているものと認められる。そうすると,前判示のとおり,原告には専門業務型裁量労働制が適用されないと認められる以上,
本件規定は,深夜に労働する場合について所属長の許可を得ることを要し,許可を得て深夜に業務を行った場合に割増賃金の支払を受け得るとされる部分を含めて,原告に適用されるものではないというべきである。
被告らは,原告が専門業務型裁量労働制の適用を受けるかどうかにかかわらず,休日又は深夜に労働する場合に所属長の許可を得なければならない旨を主張するが,採用することはできない。

 したがって,原告の所属長(大山プリンスパル)が原告に対し,深夜に労働することの許可を与えたかどうかにかかわらず,被告らは,原告に対し,深夜労働についての割増賃金を支払うべき義務があるというべきである。

4 争点3(原告が被告らに対し法定休日労働についての割増賃金の支払を請求し得るかどうか)について[編集]

 労働基準法35条は,4週間を通じ4日以上の休日を与える場合でない限り,「使用者は,労働者に対して,毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。」と規定するところ,
被告らは,被告らにおいては法定休日が特定されていないから,日曜日又は土曜日のうち労働しなかった方の日が法定休日となる旨を主張する。 

 しかし,被告らにおいては,就業規則上,日曜日,土曜日,国民の祝日,年末年始(12月30日から翌年1月4日まで),使用者が「レガシィカレンダー」により定める日が休日とされる一方,
証拠(甲3,乙3)によれば,平成21年及び平成22年においては,「レガシィカレンダー」により土曜日又は国民の祝日のうちの3日についてあらかじめ出勤日とする旨が定められていることが認められ,
これに弁論の全趣旨を総合すれば,少なくとも平成22年においては,日曜日が法定休日とされていたものと認めるのが相当である。被告らの上記主張は,採用することができない。

 したがって,平成22年8月8日(日曜日)及び同月22日(日曜日)は,いずれも法定休日であり,上記両日における労働については,法定休日労働として割増賃金が支払われるべきである。

5 争点4(被告らが原告に対し割増賃金及びこれに対する遅延損害金を連帯して支払う義務を負うかどうか)について[編集]

 前判示のとおり,原告は,被告ら双方と労働契約を締結したものの,被告らに対し,そのいずれの業務であり,そのいずれが労務提供先となるのかを格別区別することなく,双方の業務が渾然一体となったものとして,
その労務を提供していたものであり,被告らも,原告から,被告らのいずれの業務であり,被告らのいずれが労務提供先となるのかについて格別区別することなく,その労働の提供を受けていたものであると認められる。
このような事実関係の下では,原告と被告らの間においては,労務の提供のほか賃金の支払について,これを不可分債務とする旨の黙示の合意があったものと認めるのが相当である。

 したがって,被告らは,原告に対し,賃金及びこれに対する遅延損害金を連帯して支払うべき義務を負うというべきである。

6 争点5(被告らが原告に対して支払うべき割増賃金の額)について[編集]

 既に判示したところに,前記争いのない事実等,証拠(甲12)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,被告らに雇用されている間,被告らの明示又は黙示の業務命令に基づいて,
別紙「出退勤時刻等一覧表」の「通常残業時間」欄記載のとおりの時間外労働に従事し,同「深夜残業時間」欄記載のとおりの深夜労働に従事し,同「休日労働時間」欄記載のとおりの法定休日労働に従事したこと,
それぞれの時間は,時間外労働が合計661時間40分,深夜労働が合計102時間48分,法定休日労働が合計9時間であることが認められ,上記の時間外労働,深夜労働及び法定休日労働についての割増賃金の額は,
原告主張のとおり,時間外労働についての分が合計172万0333円,深夜労働についての分が合計32万0736円,法定休日労働についての分が合計2万5272円と算定される。

 したがって,被告らが原告に対して支払うべき割増賃金の額は,上記算定の割増賃金合計206万6341円から支払済みの5万2008円を控除した201万4333円であると認められる。

7 争点6(被告らが原告に対して支払うべき遅延損害金の額)について[編集]

 被告らは,賃確法6条2項,賃確法施行規則6条4号について,事業主が必ずしも合理的な理由がないとはいえない理由に基づき賃金の全部又は一部の存否を争っている場合にも,
同法6条1項の適用除外を定めたものであるとして,上記の未払割増賃金に対する遅延損害金について,商事法定利率によるべきであると主張する。
しかし,賃確法6条2項は,賃金の支払の確保措置を通じて労働者の生活の安定を図るという趣旨に基づき,賃金の支払遅滞が「天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合」に同条1項の適用を除外しようとするものであり,
その規定の趣旨及び文言に照らせば,同条2項,同規則6条4号は,事業主の賃金支払拒絶が天変地異と同視しうるような合理的かつやむを得ない事由に基づくものと認められる場合に限り,同法6条1項の適用を除外したものと解するのが相当である。
被告らの上記主張は,採用することができない。

 原告は,被告らに対し,連帯して201万4333円に対する平成22年10月6日から支払済みまで年14.6%の割合による金員の支払を求めることができるというべきである。

8 争点7(原告の割増賃金請求が信義則に違反するかどうか)について[編集]

 被告らは,いくつかの事情を摘示して,原告の割増賃金請求が信義則に違反する旨を主張するが,いずれの事情をもってしても,原告の請求が信義則違反であると評価するに足りない。

 特に,被告らは,原告が背信的意図に基づく機密保持義務違反行為に及んだことを強調するが,仮に,原告に被告ら摘示の事実があり,それにより被告らが損害を被ったとしても,
それをもって原告の賃金請求が信義則違反である旨を主張することは,原告に対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権として原告の賃金債権を相殺するものにほかならず,
賃金全額払の原則(相殺禁止の趣旨を包含する。)を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかである。

 したがって,原告の割増賃金請求が信義則に違反するとは認められない。

9 争点8(被告らに対し付加金の支払を命じるべきであるかどうか及びその金額いかん)について[編集]

 原告は,平成22年1月~同年9月分の割増賃金にかかる付加金について,被告らに対し,平成24年6月4日に本件訴えを提起し,その支払を求めたものである。
そして,被告らは,労働基準法の規定に違反して,原告に対する時間外労働等についての割増賃金の支払をしなかったものであるところ,
その違反の程度や態様については,専門業務型裁量労働制に係る法令の解釈適用を誤ったことに起因するものであり,必ずしも悪質であるとはいえない。
他方,被告らは,本件訴訟に至って以降,賃金全額払の原則を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかな主張を重ねるなどして,
原告に対する未払割増賃金の支払をしようとしなかったという事情も存する。
これらの諸般の事情を総合考慮すれば,本件においては,被告らに対し,同法114条ただし書所定の期間内の付加金として,20万円の支払を命じるのが相当である。

10 結論[編集]

 以上によれば,原告の請求は,被告らに対し,主文1項及び2項記載の金員の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。

 よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第11部

裁判官 中吉徹郎